宿毛まちのえき林邸
本計画は、高知県宿毛市に位置する邸宅「林邸」を観光客の街歩きの起点として、また市民が日常的に集まれる場所として改修するものである。
林家は近代日本で初めて、林有造、譲治、迶と三代続けて大臣を輩出し、親類の吉田茂、竹内明太郎らと共に近代日本の発展をリードした一家である。林邸は林有造の居宅として明治22年(1889)に建設され、以来130年に渡り自由民権運動の系譜を連綿と引き継ぐ屋敷として親しまれてきた。しかし、築約130年が経過し雨漏りによる材の腐朽、瓦土の落下など老朽化が著しい状態であった。
この貴重な歴史的建築、林邸が有する地域の記憶を未来へと継承するために、単純な復元ではなく、地域の人たちの新たな活動の場所として更新することとなった。さらにはこの林邸が宿毛市の観光まちづくりの中心として機能することで、地域外の人々も気軽に訪れることができる施設となることを目指した。
改修の方針は、林邸を大きく二つのゾーンに分け、1階西側と2階は復元的な「文化的改修」を行い、1階東側は「現代的改修」を行うこととした。
「文化的改修」とは、現代の使い方に耐えられるように耐震改修や最低限の変更を加えながら、古材を最大限活かし歴史的空間を復元的に改修することであり、この部分はコミュニティースペースや展示スペース、事務室などとして使われる。「現代的改修」とは、現代の新しい使われ方に必要な新たな機能を付加するために大胆な改修、増築を行うことです。この部分はカフェやキッチンスペース、トイレなどとしている。耐震改修のために必要となる耐震壁として強化ガラスによるものと、木製組子格子によるものを製作し、実験により強度を実証した。
種別:リノベーション
竣工:2018年4月
場所:高知県宿毛市
設計:NASCA+早稲田大学古谷研究室(在籍時に担当)
写真:淺川敏